成形加工での注意事項について

ステンレス鋼は、一般にプレス加工、曲げ加工や剪断・打ち抜き加工を利用して成形されます。
特にプレス加工は、種々の形や複雑な成形を行う時に、よく利用されています。

1. プレス加工の種類

プレス加工はパンチとダイを用いて、板を目的の形状に変形させていく加工方法です。プレス加工は、成形において材料にかかる応力のパターンにより、大きく3種類に分類されます。

A)絞り成形

材料が絞り方向に引っ張られ、それと直角の円周方向に圧縮がかかる加工です。
円筒形の成形加工はこれにあたります。

B)張り出し成形

板に引っ張り応力のみが働き、風船を膨らますような加工方法です。

C)曲げ成形

曲げ中心の外側が引張応力、内側に圧縮応力が働く加工方法です。

2. プレス加工に関係する材料特性

材料に求められる特性はプレス方法で異なります。プレス加工では加工される材料の押さえ方や潤滑方法などにより、その材料の持つ特性を最大に引き出すために、プレス条件を調整する必要があります。また、SUS304等のオーステナイト系ステンレス鋼では加工された部分でマルテンサイトが発生し、磁性を帯びてきます。

A)絞り成形

絞り成形では、絞り深さが大きな材料が一般的には成形性の良い材料とされます。材料指標としてはr値(ランクフォード値)の大きいものがこれにあたります。r値は材料に引っ張り力が加わったときに、幅方向と板厚方向の板厚減少の比率で表わされます。

B)張り出し成形

引っ張り加工より材料が変形すると硬くなります。この変形が材料の局部で発生するのを防止し、均一変形が起こる加工硬化が大きな材料が加工性の良い材料となります。材料指標としては、n値(加工硬化指数)が大きい材料がこれにあたります。

C)曲げ成形

曲げ加工の内径が小さくなるほど厳しい加工となります。曲げの外側に割れが発生しにくい材料が良い材料となります。材料指標としては、伸びが大きな材料がこれにあたります。

材料特性からすると、張り出し成型要素と曲げ加工要素が強い加工には、オーステナイト系ステンレス鋼が優れ、絞り成形要素が強い加工にはフェライト系ステンレス鋼が優れています。

3. プレス加工で発生する不具合とその対応

プレス加工で発生する不良はプレスの条件と密接に関連しており、一概に結論づけしにくい点もありますが、一般的に次のような対応が有効です。

A)置き割れ

SUS304等のオーステナイト系ステンレス鋼を絞り成形後に、時間経過して割れが発生する現象です。その発生はプレス条件に大きく左右され、特に加工量が大きいほど起こりやすくなります。

対策としては、加工によりマルテンサイトの発生し難い、炭素や窒素を減少させた材料を使用したり、加工後に焼鈍して加工で発生したマルテンサイトを除去したりします。

B)縦割れ

SUS430等のフェライト系ステンレス鋼を絞り成形した時に、縦方向に割れが発生する現象です。発生の原因は絞り加工による材料脆化であり、対策としてはr値の大きい、炭素や窒素を減少させチタンを添加した材料を使用します。

C)リジング

ローピングとも呼ばれ、SUS430などのフェライト系ステンレス鋼を加工したときに、板の表面に現れるうねり状の凹凸模様です。鋼種によりその程度は多少異なりますが、完全になくすことはできません。

D)オレンジピール

素材の結晶粒径の大きな材料を加工すると、表面に梨地状の肌荒れが発生します。対策として、結晶粒度を小さくしますが、これによりn値やr値も低下してきますので注意を要します。

表1.鋼種毎の代表的な機械的性質と成形指標

鋼 種 0.2%耐力
(N/mm2)
引張強さ
(N/mm2)
伸び
(%)
硬さ
(HV)
加工硬化指数
n値
ランクフォード値
r値
SUS304 315 620 55 170 0.44 1.0
SUS430 270 520 25 150 0.20 1.2
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